米国の仮想通貨規制の動向が、2026年春に大きな転換点を迎えようとしています。
共和党のトム・ティリス上院議員は、長らく停滞していた仮想通貨市場構造法案、通称CLARITY法の採決に向けて、上院銀行委員会のティム・スコット委員長に対し、正式なマークアップ(法案修正・採決プロセス)のスケジュール設定を強く要請する意向を明らかにしました。
この動きは、不明確な規制環境に置かれてきた米国のデジタル資産市場にとって、決定的な一歩となる可能性があります。
停滞する仮想通貨法案とティリス議員の戦略
ティリス上院議員は、2026年4月29日(水)に行われた記者団との懇談において、同法案の上院版が「大きな進進展を遂げた」と述べ、5月11日の休会明けの会合で採決を進めるべきだと主張しました。
現在、仮想通貨規制を巡る議論は、法案の文言調整やロビイストによる修正要求によって遅延を繰り返していますが、ティリス氏は「マークアップという強制的なメカニズムがない限り、反対派は際限なく議論を長引かせるだろう」と指摘し、早期決着を目指す姿勢を鮮明にしています。
上院版CLARITY法が目指す規制の枠組み
CLARITY法の核心は、米国の二大規制機関である証券取引委員会(SEC)と商品先物取引委員会(CFTC)が、どのように仮想通貨市場を監督・分担するかを明確に定義することにあります。
| 比較項目 | 下院版 (2025年7月通過) | 上院版 (審議中) |
|---|---|---|
| 主な規制対象 | 市場構造の明確化とステーブルコイン | 消費者保護と倫理規定の強化 |
| 焦点 | 業界の成長とイノベーション重視 | 法執行機関の懸念と倫理的透明性 |
| 現在の状況 | 可決済み | 大幅な修正を経て採決を模索中 |
下院ではすでに2025年7月に同様の法案が可決されていますが、上院では独自の修正が加えられたことで、両院の調整が必要な状況が続いています。
議論の焦点:ステーブルコインの利回りと銀行業界の反発
法案の進展を阻んでいる最大の要因の一つが、ステーブルコインに関連する規定です。
特に、仮想通貨取引所がユーザーに対してステーブルコインの利回りを支払うことを禁止する条項を巡り、激しい対立が続いています。
コインベースの支持撤回と銀行ロビーの動き
2026年1月、大手仮想通貨取引所のコインベースは、この利回り禁止条項が含まれていることを理由に、法案への支持を突如撤回しました。
これにより、上院銀行委員会での議論は一時ストップする事態となりました。
一方で、既存の銀行業界のロビイストたちは、この条項を維持するよう強く求めています。
銀行側が主張する主な理由は、GENIUS法との整合性です。
- GENIUS法:ステーブルコイン発行体が直接利回りを支払うことを禁じている。
- 懸念点:発行体が禁じられていても、第三者である取引所が利回りを支払えるのであれば、実質的な抜け穴(ループホール)になると銀行側は危惧している。
ティリス議員は、銀行側の懸念の多くにはすでに対処したとしており、「銀行側が誠意を持って協議に応じるのであれば、さらなる修正の余地はあるが、そうでなければ採決を強行するよう委員長に促す」と、銀行業界に対しても強気な姿勢を見せています。
開発者保護と法執行機関の懸念
もう一つの重要な争点は、仮想通貨ソフトウェア開発者の法的責任に関する規定です。
シンシア・ルミス上院議員が進めているこの規定は、自らが開発したプラットフォーム上で第三者が違法行為を行った場合、開発者個人を起訴から保護するという内容を含んでいます。
しかし、米国の法執行機関からは、この規定が悪用されることで、犯罪の温床となるプラットフォームの開発を助長しかねないとの強い懸念が示されています。
ティリス議員は、ルミス議員が進めている修正案を概ね支持しつつも、法執行機関の懸念を適切に反映させる必要があると述べ、バランスの取れた文言への調整を急いでいます。
議員自身の「倫理規定」が成立の鍵を握る
意外な展開を見せているのが、ティリス議員自身が新たに掲げた倫理条項の導入です。
彼は、政府職員が仮想通貨を利用したり、特定の銘柄を推奨したりする際の制限を設ける倫理規定が法案に含まれない限り、最終的な支持は行わないと明言しました。
これは上院銀行委員会の民主党議員たちも強く求めている内容であり、超党派の合意形成に向けた重要なピースとなっています。
ティリス氏は「この倫理規定が上院を通過する前の法案に含まれていなければ、私は交渉担当から一転して反対票を投じる側に回るだろう」と語っており、「規制の透明性だけでなく、規制する側の透明性」もセットで追求する構えです。
まとめ
2026年5月11日のセッション再開に向けて、ティリス上院議員は採決の4日前までに法案の最終テキストを公開することを目指しています。
ステーブルコインの利回り禁止、開発者保護、そして議員の倫理規定という三つの大きな壁が残っていますが、ティリス氏による「マークアップの強行要請」は、停滞していた米国の仮想通貨法整備に強力な推進力を与えることになるでしょう。
今後の数週間で、銀行業界と仮想通貨業界、そして法執行機関の間でどのような妥協点が模索されるのか、世界の投資家と市場関係者の注目が集まっています。
米国の法的枠組みが確定すれば、ビットコインをはじめとするデジタル資産市場全体の信頼性は大きく向上し、次なる成長フェーズへと突入することが期待されます。

