ジブラルタル政府が新たに発表した法案は、伝統的な金融市場とブロックチェーン技術を融合させる歴史的な一歩となります。
2026年4月、ジブラルタルは「保護細胞会社(改正)法案2026 (Protected Cell Companies (Amendment) Bill 2026)」を導入し、特定の規制下にあるファンドが分散型台帳上で株式を発行することを法的・公式に認める方針を固めました。
これにより、投資家は従来の紙ベースや電子的な証券と同等の法的権利を、トークンという形で保有できるようになります。
トークン化株式に付与される法的地位と投資家保護
今回の法案における最大の焦点は、トークン保有者が従来の株主と完全に同等の権利と義務を有すると明記された点にあります。
これまで多くの管轄区域では、ブロックチェーン上のトークンは「資産」としての側面が強調される一方で、会社法上の「株式」としての地位が曖昧なケースが少なくありませんでした。
ジブラルタルが提示した新法案では、以下の点が法的に保障されます。
- 権利の同等性:トークン化された株式の保有者は、従来のセル株式 (Cell Shares) 保有者と全く同じ配当受領権、議決権、および法的保護を享受します。
- 公式な株主名簿:ブロックチェーンベースの共有レジスタが、会社法に基づく正式な所有権記録として認められます。
- スマートコントラクトの活用:株式の発行や譲渡において
smart contractsおよび暗号署名を使用することが法的に有効な手段として定義されます。
保護細胞会社 (PCC) の構造とトークン化のメリット
法案の対象となる「保護細胞会社 (PCC)」とは、コアとなる組織の中に、相互に法的・財務的に独立した「セル (細胞)」を複数設置できる特殊な企業形態です。
主に保険業界やヘッジファンドで活用されており、特定の資産プールを他の資産から隔離できる利点があります。
| 構成要素 | 役割と特徴 |
|---|---|
| コア組織 | PCC全体の管理・運営を担う中心部分 |
| 独立セル (Cell) | 特定の投資戦略や資産プールごとに分離された単位 |
| トークン化株式 | 各セルに紐付いた株式をブロックチェーン上で発行したもの |
このPCC構造にトークン化を導入することで、資産の透明性が飛躍的に向上し、投資家は自分がどのセルのどの資産に対して権利を持っているかをリアルタイムで確認可能になります。
厳格な規制とセキュリティ要件
ジブラルタル金融サービス委員会 (GFSC) の承認を前提とするこの枠組みは、決して「許可不要 (Permissionless)」なオープン市場を目指すものではありません。
むしろ、規制された環境内での技術革新を重視しています。
許可制ネットワークとコンプライアンス
法案では、トークンの譲渡を検証済みの投資家やホワイトリストに登録されたウォレットアドレスに限定するよう求めています。
これは、マネーロンダリング防止 (AML) やテロ資金供与対策 (CFT) の観点から、誰が株式を保有しているかを常に把握できるようにするためです。
企業に課される義務
- インフラの制御:企業は基盤となるブロックチェーンインフラに対する制御権を維持しなければなりません。
- サイバーセキュリティ:技術的なリスク、サイバー攻撃への対策、およびシステム障害時の復旧手順に関する詳細な開示が必要です。
- カストディの厳格化:資産の保管と転送に関する厳格なルールを遵守し、投資家の資産が安全に管理されていることを証明する必要があります。
世界的な資産トークン化 (RWA) の潮流
ジブラルタルのこの動きは、世界各地で加速している「現実資産 (RWA) のトークン化」という大きなトレンドの一部です。
2026年現在、主要な金融ハブは競うようにブロックチェーンベースの証券インフラを整備しています。
主要国におけるトークン化の進展状況
- スイス:2021年に世界に先駆けて仮想通貨ファンドを承認。2025年には初のDLT (分散型台帳技術) 取引施設ライセンスを発行し、トークン化された証券の取引と決済を規制下で可能にしました。
- シンガポール:2022年から開始された「プロジェクト・ガーディアン (Project Guardian)」を通じて、ホールセール市場での資産トークン化テストを継続しており、機関投資家向けのインフラ構築を進めています。
- 香港:2023年からトークン化政府国債を発行。2024年以降はそのプログラムを大幅に拡大し、デジタル資産市場のリーダーとしての地位を固めています。
- カナダ:2026年3月に、分散型台帳インフラ上で初のトークン化債券の発行および決済のパイロット運用を完了させました。
国際機関によるデジタル債券の採用
世界銀行もこの流れに同調しており、2024年にはスイス証券取引所 (SIX Digital Exchange) において、中央銀行デジタル通貨 (CBDC) を決済手段としたスイスフラン建てデジタル債券を発行しています。
さらに欧州中央銀行 (ECB) も、厳格なガードレールを設けた上でのEU資本市場のトークン化を支持する姿勢を鮮明にしています。
まとめ
ジブラルタルの新法案は、ブロックチェーン技術が単なる投機の対象から、法的に保護された信頼性の高い金融インフラへと成熟したことを象徴しています。
トークン化された株式が伝統的な株券と等価として認められることで、事務コストの削減、24時間365日のリアルタイム決済、そして分数的保有 (小口化) による市場の流動性向上が期待されます。
今後は、この法案がジブラルタルの立法プロセスを経て正式に施行される時期に注目が集まります。
規制当局であるGFSCがどのような運用ガイドラインを策定するかにより、世界中の機関投資家がジブラルタルをトークン化ファンドの拠点として選択するかが決まるでしょう。
金融のデジタル化が加速する中、ジブラルタルは確固たる法的基盤を提供することで、次世代の資本市場を牽引しようとしています。

