2026年、ビットコイン(BTC)市場が新たな局面を迎える中、世界最大のビットコイン保有企業であるStrategy社(旧MicroStrategy)が発表した2026年度第1四半期決算は、業界全体に大きな衝撃を与えました。

これまで一貫して「決して売却しない」という「ダイヤモンド・ハンド」の姿勢を貫いてきたマイケル・セイラー会長が、ついにビットコインの一部売却の可能性に言及したためです。

同期の決算では、ビットコイン価格の下落に伴う評価損が響き、125億ドル(約1兆9000億円)という巨額の最終赤字を計上しました。

しかし、セイラー氏はこの赤字や売却の可能性を悲観的な文脈で語ったのではありません。

そこには、ビットコインを基軸とした新しい金融システム「デジタル・クレジット」への移行という、より壮大な戦略が隠されています。

本記事では、Strategy社の最新決算の内容と、セイラー氏が提唱する「市場への接種(Inoculation)」としての売却戦略の真意について深く掘り下げます。

2026年第1四半期決算の詳細:含み損がもたらした125億ドルの巨額赤字

Strategy社が発表した2026年度第1四半期(1月〜3月期)の決算報告書によると、同社は極めて対照的な2つの数字を記録しました。

本業であるソフトウェア事業の売上高は前年同期比11.9%増の1億2430万ドルと堅調に推移した一方で、純利益は125億4267万ドルの純損失となりました。

会計基準とビットコイン価格の変動

この巨額赤字の主因は、同社が保有する膨大なビットコインにかかる「デジタル資産の未実現損失」です。

2026年第1四半期、ビットコイン価格は四半期ベースで23.8%下落しました。

新たな会計基準(ASU 2023-08)に基づき、同社は四半期末時点の時価でビットコインを再評価する必要があり、その結果として144億5547万ドルもの営業費用(評価損)が発生したのです。

以下の表は、Strategy社の2026年第1四半期と前年同期の財務ハイライトを比較したものです。

項目2026年第1四半期 (Q1)2025年第1四半期 (Q1)前年同期比
総売上高1億2430万ドル1億1106万ドル+11.9%
売上総利益8335万ドル7709万ドル+8.1%
デジタル資産の評価損144億5547万ドル59億600万ドル+144.7%
純損失125億4267万ドル42億1737万ドル+197.4%
保有ビットコイン数818,334 BTC528,185 BTC (2025/3/31)+54.9%

数字だけを見れば壊滅的な赤字に見えますが、同社は同期中にも積極的にビットコインを買い増しており、2026年5月3日時点での総保有数は818,334 BTCに達しています。

これはビットコインの総供給量の約4%に迫る規模であり、同社の「ビットコイン・トレジャリー」としての地位は揺らいでいません。

セイラー氏の転換点:「市場への接種」としての売却計画

今回の決算説明会で最も注目を集めたのは、マイケル・セイラー会長が「ビットコインを売却する可能性がある」と明言したことです。

これは、2020年以来彼が繰り返してきた「永遠に保有する(HODL)」という教義からの大きな転換を意味します。

「売却」に込められたメッセージ

セイラー氏は、ビットコインの売却を「市場に接種(Inoculate)するため」と表現しました。

これは医学用語の「予防接種」になぞらえた表現であり、あえて少額のビットコインを売却することで、市場参加者に以下のメッセージを伝えようとする意図があります。

  1. 健全性の証明:ビットコインを売却しても会社は揺るがず、市場も崩壊しないことを示す。
  2. 株主還元:売却資金を配当原資に充てることで、株主に対して直接的な価値を提供する。
  3. パニックの抑制:将来的なパニック売りが発生した際、あらかじめ「売却実績」を作っておくことで市場の耐性を高める。

セイラー氏は、「ビットコインを売って配当を支払うことで、『会社は大丈夫だ、ビットコインも大丈夫だ、世界は終わらなかった』というメッセージを送るつもりだ」と述べました。

これは、Strategy社を単なる「保有会社」から、「ビットコインを活用した資本管理会社」へと進化させる決意の表れと言えるでしょう。

デジタル・クレジットの新境地:STRC(Stretch)の成功

Strategy社が赤字を計上しながらもビットコインを買い続けられる背景には、同社が独自に構築した「デジタル・クレジット」のエコシステムがあります。

特に、2025年初頭に導入された永久優先株「STRC(Stretch)」は、同社の資金調達戦略の核となっています。

STRCの仕組みとパフォーマンス

STRCは、ビットコインの価格変動から切り離された安定的な利回りを提供する金融商品です。

  • 配当実績:ローンチ以来23回連続で配当を支払い、累計支払額は6億9300万ドルを超えています。
  • 市場規模:わずか9ヶ月で85億ドル規模にまで成長し、世界最大の時価総額を持つ優先株となりました。
  • シャープレシオ:2.53という極めて高いリスク調整後リターンを記録しています。

このSTRCの発行によって調達された資金が、同社のビットコイン購入の原動力となっており、2026年に入ってからだけで145,834 BTCもの追加購入を可能にしました。

セイラー氏は、このSTRCを「世界最大のクレジット・インストゥルメント」に育てることを目指しています。

財務指標としての「BTC Yield」の重要性

Strategy社は現在、従来の純利益よりも「BTC Yield(BTC利回り)」という独自のKPI(重要業績評価指標)を重視しています。

これは、同社の発行済み株式(希薄化後ベース)あたりのビットコイン保有量の増減率を示す指標です。

2026年度第1四半期のレポートによると、同社は年初来で9.4%のBTC Yieldを達成しました。

これは、株主がStrategy社の株を保有しているだけで、間接的なビットコインの持ち分が実質的に9.4%増加したことを意味します。

セイラー氏は、ビットコインのドル建て価格が短期的に下落し、会計上の赤字が出たとしても、この「BTC Yield」がプラスである限り、同社の戦略は「株主に対して付加価値を生んでいる(Accretive)」と断言しています。

ビットコイン・クレジット市場の未来とネオバンクの台頭

セイラー氏のビジョンは、Strategy社単体の成功に留まりません。

彼は現在、ビットコインを裏付けとした「デジタル・イールド・アカウント(デジタル利回り口座)」の普及を予見しています。

分散型金融(DeFi)との融合

決算説明会では、Pendle(ペンドル)やSaturn(サターン)といったDeFiプロトコルが、STRCの配当をトークン化して取引可能にしている現状が紹介されました。

これにより、ビットコインを担保とした信用の流動性が劇的に向上しています。

ネオバンクへの期待

また、セイラー氏は今後12週間以内に「エキサイティングなニュース」があることを示唆し、ネオバンクが最大8%の利回りを提供するビットコイン裏付け口座の提供を開始することに強い期待感を示しました。

これは、ステーブルコインによる利回りを大きく上回るものであり、伝統的な銀行システムに対する強力な代替手段となる可能性があります。

まとめ

Strategy社の2026年第1四半期決算は、会計上の「125億ドルの赤字」という表面的な数字の裏に、ビットコイン金融化の第2章が始まったことを示唆しています。

マイケル・セイラー氏による「売却」への言及は、決してビットコインへの信頼が揺らいだわけではなく、むしろ「ビットコインを自由に使いこなし、市場をコントロールできる」という自信の表れです。

STRCを中心としたデジタル・クレジット戦略は、ビットコインのボラティリティを制御可能な「利回り」へと変換し、機関投資家や法人がビットコインを「真の資本」として活用できるインフラを構築しつつあります。

ビットコイン価格が8万ドル付近で推移し、伝統的な金融機関であるモルガン・スタンレーやゴールドマン・サックスがETFやカストディサービスを加速させる中、Strategy社は単なる「ビットコイン・クジラ」を超えた、ビットコイン経済圏の「中央銀行」的役割を担い始めています。

投資家にとって、同社の「BTC Yield」を維持・向上させる能力は、今後の暗号資産市場における最も重要な指標の一つであり続けるでしょう。