2026年5月、マイアミで開催された「Consensus」カンファレンスにおいて、仮想通貨(暗号資産)業界の未来を左右する重要な提言がなされました。
リップル社のCEOであるブラッド・ガーリングハウス氏は、現在米国上院で審議されている包括的なデジタル資産市場構造法案、通称CLARITY Actについて、「成立が確定したわけではない」と強い警戒感を示しました。
ステーブルコインの利回りに関する妥協案が成立したことで法案成立への期待が高まっていますが、政治的なタイムリミットが刻一刻と迫っています。
CLARITY Actを巡る現状とガーリングハウス氏の警告
ブラッド・ガーリングハウス氏は、火曜日のセッションにおいて、デジタル資産の明確なルール作りを目指すCLARITY Actの進展について言及しました。
先週、トム・ティリス上院議員とアンジェラ・オルサブロック上院議員が、長年の懸案事項であった「ステーブルコインの利回り(イールド)」に関する妥協案を発表したことで、法案は大きな前進を見せたと評価されています。
しかし、ガーリングハウス氏の見解は慎重です。
同氏は、法案が最終的な成立に至るかどうかは「今後2週間の動向」にすべてがかかっていると強調しました。
この短期間に具体的な進展がなければ、法案の成立確率は急激に低下するというのが同氏の予測です。
2026年中間選挙が及ぼす法案審議への影
ガーリングハウス氏が「2週間」という具体的な期限を区切った背景には、米国の政治カレンダーが深く関わっています。
2026年11月に控えた中間選挙に向けたキャンペーンが本格化しており、各地で予備選挙が進行している現状では、仮想通貨規制のような複雑で意見が分かれやすい問題は「政治的に重すぎる負担」となる可能性が高いのです。
選挙イヤーにおける議会の停滞リスク
米国の議会では、選挙直前の数ヶ月間は新たな重要法案の採決が避けられる傾向にあります。
これは、議員たちが自身の再選に向けた活動に注力するためだけでなく、論争を呼ぶ法案への投票が有権者の判断に影響することを恐れるためです。
ガーリングハウス氏は、「CLARITY Actが完璧だとは到底思えないが、混乱よりも明確さの方がはるかに優れている」と述べ、妥協を伴ってでも現在のタイミングでルールを確定させる重要性を訴えました。
ステーブルコイン妥協案の内容とその意義
CLARITY Actの最大の障壁となっていたのは、ステーブルコインの定義と規制の範囲でした。
特に、ステーブルコインの保有に対して利回りを付与するモデルが、証券法上の「投資契約」に該当するかどうかが激しく議論されてきました。
ティリス議員とオルサブロック議員による合意
先週合意された妥協案では、ステーブルコインの発行体が提供する利回りについて、一定の開示義務と準備金の厳格な管理を条件に、銀行規制の枠組みに近い形で容認する方向性が示されました。
これにより、2025年7月に下院を通過したものの、上院で足踏みを続けていた法案に新たな息吹が吹き込まれた形です。
| 項目 | 従来の論点 | 妥協案による方向性 |
|---|---|---|
| ステーブルコインの利回り | 証券法(SEC管轄)の適用を主張 | 銀行規制に準じた開示と管理を条件に許容 |
| トークン化株式 | 既存の金融規制との競合 | サンドボックス制度による段階的な導入 |
| 倫理規定 | 業界の自主規制に依存 | 連邦レベルでの厳格なコンプライアンス義務 |
この合意は、法案が上院農業委員会での検討(2026年1月のマークアップ)を経て、次の関門である上院銀行委員会での承認を得るための強力な後押しとなると期待されています。
規制当局の動きと「議会不在」の対応
議会での法案成立が遅れる一方で、米国の規制当局は独自に動きを加速させています。
2026年3月、証券取引委員会(SEC)と商品先物取引委員会(CFTC)は、デジタル資産市場の監督に関する「協力に関する覚書(MOU)」を締結しました。
ポール・アトキンスSEC委員長の視点
現在のSECを率いるポール・アトキンス委員長は、このMOUについて「あくまで始まりに過ぎず、終わりではない」と述べています。
アトキンス氏は仮想通貨に対して以前の体制よりも柔軟な姿勢を見せていますが、それでもCLARITY Actのような法的な裏付けがなければ、長期的かつ安定的な規制は不可能であるとの立場を崩していません。
行政による解釈の限界
現在の規制環境は、法律そのものではなく、当局による「解釈」に依存している部分が多く残されています。
シンシア・ルミス上院議員(銀行委員会所属)は、SNSでの投稿を通じて「法的な不透明感の下で業界全体が運営を続けている現状を放置すべきではない」と警告し、議会の即時行動を求めています。
ルミス議員は、CLARITY Actを「将来の優先事項ではなく、今現在の最優先事項」と位置づけています。
リップル社とホワイトハウスの交渉裏話
リップル社は、単なる市場参加者としてだけでなく、規制の策定プロセスにおいても重要な役割を果たしてきました。
ガーリングハウス氏を含む同社の経営陣は、ホワイトハウス関係者、銀行業界、そして仮想通貨業界の代表者たちが集うハイレベルな交渉に継続的に参加しています。
混沌から秩序への転換
ガーリングハウス氏は、「完璧な法律など存在しない。重要なのはトレードオフと妥協のバランスだ」と語りました。
同氏がCLARITY Actの成立に固執するのは、米国がこのまま明確な指針を持たなければ、仮想通貨イノベーションの拠点が海外へ流出し続けるという強い危機感があるからです。
リップル社が直面してきた長期にわたる法的紛争を背景に、同氏は「混沌(カオス)」こそが業界最大の敵であると説いています。
業界が一丸となるべき瞬間
現在、仮想通貨関連の政治活動資金(PAC)は、2026年の中間選挙に向けて巨額の資金を投入しています。
インディアナ州の予備選挙などでは、仮想通貨支持派の候補者を支援するために50万ドル以上の資金が動く事例も報告されています。
このように、業界が政治的な影響力を行使し始めている今こそ、法案成立に向けた「最後の押し」が必要な時期に来ています。
今後2週間に注目すべきポイント
投資家や業界関係者が注視すべきは、上院銀行委員会におけるスケジューリングです。
ガーリングハウス氏が指摘するように、今後14日間で審議の進展が見られない場合、法案は中間選挙後の「ラメダック・セッション(選挙後の会期末)」まで棚上げされるか、最悪の場合は廃案となる恐れがあります。
- 銀行委員会のマークアップ時期: 委員長がいつ議論を開始するかが焦点。
- 超党派の支持の広がり: ティリス議員とオルサブロック議員の妥協案に賛同する議員がどれだけ増えるか。
- 大統領選挙への影響: 2026年の中間選挙結果が、次期大統領選に向けた仮想通貨政策にどう反映されるか。
これらの要素が複雑に絡み合い、CLARITY Actの運命が決まります。
まとめ
2026年5月の現在、米国の仮想通貨規制は大きな分岐点に立っています。
リップル社のブラッド・ガーリングハウス氏が「Consensus」で放った警告は、楽観論に傾きがちな市場への冷や水であると同時に、最後のチャンスを逃すなという鼓舞でもあります。
ステーブルコインの利回りに関する妥協案という大きな一歩を踏み出したものの、中間選挙という政治的な壁が立ちはだかっています。
もしCLARITY Actが成立すれば、米国は「混沌」から脱却し、デジタル資産におけるリーダーシップを再確立できるでしょう。
しかし、もしこの2週間を逃せば、再び法的不透明感という霧の中に業界は取り残されることになります。
ガーリングハウス氏の言葉通り、完璧ではないにせよ「明確さ(Clarity)」を手に入れられるかどうか。
その答えは、米国議会の勇気ある決断にかかっています。
今後の2週間、ワシントンD.C.から目が離せない日々が続きます。
