かつて「クリプト・ツイッター(CT)」と呼ばれ、仮想通貨界隈の情報の中心地であったSNSプラットフォーム「X」において、大きな変革が起きています。

2026年4月末、Xの製品責任者が公開したデータによると、プラットフォーム内で「仮想通貨(Crypto)」が最もミュートされているトピックとして不名誉な1位に輝いたことが明らかになりました。

投資家や開発者の交流の場であったはずの空間が、なぜユーザーから拒絶される対象へと変貌してしまったのか、その背景にはAI生成スパムの氾濫という深刻な問題が潜んでいます。

Xにおけるミュート機能の普及と仮想通貨の凋落

Xが2026年4月22日に導入した新機能snoozeは、有料プランである「Xプレミアム」の購読者が特定のキーワードやトピックを24時間、おすすめ(For You)フィードから完全に排除できるツールです。

この機能の導入からわずか1週間あまりで、仮想通貨は政治や紛争、スポーツといった他の主要トピックを抑え、ユーザーに最も「見たくない」と判断される話題となりました。

Xの製品責任者であるニキータ・ビア(Nikita Bier)氏が共有したランキングによると、ミュートされたトピックの順位は以下の通りです。

順位ミュートされたトピック
1仮想通貨(Crypto)
2政治(Politics)
3イラン紛争(Iran conflict)
4スポーツ(Sports)
5ビジネス・金融(Business and finance)

かつてビットコインの価格変動やイーサリアムのアップデート情報に熱狂していたコミュニティが、いまや「ノイズの温床」として避けられている現実が浮き彫りになっています。

「AIスロップ(AI Slop)」とInfoFiの負の連鎖

仮想通貨トピックがここまで嫌われる最大の要因として挙げられているのが、「AIスロップ(AI slop)」と呼ばれるAI生成による低品質なコンテンツの氾濫です。

これは、単なるスパムを超え、生成AIを用いて大量生産された無意味な投稿や、エンゲージメント稼ぎのためだけの機械的なリプライを指します。

InfoFiアプリの影響

特に悪影響を及ぼしたのが、いわゆるInfoFi(インフォ・ファイ)系アプリの台頭です。

これらのアプリは、特定のキーワードを含んだ投稿や、仮想通貨に関する投稿に反応することでユーザーに報酬(トークンやポイント)を与える仕組みを採用していました。

その結果、以下のような問題が発生しました。

  • 報酬目的の自動投稿ボットが急増し、実質的な議論が消失した。
  • 中身のないgm(おはよう)という挨拶だけの連投がタイムラインを埋め尽くした。
  • AIが生成したもっともらしいが中身のない「投資アドバイス」が拡散され、信頼性が低下した。

X側もこれに対抗すべく、2026年1月には投稿に対して報酬を支払うサードパーティアプリを遮断するためにAPIポリシーを変更しましたが、AIによる巧妙なスパム投稿を完全に排除するには至っていません。

開発者とコミュニティの対立

ニキータ・ビア氏は、仮想通貨界隈の視認性が低下している問題について、「ユーザー自身の自業自得」であるとの見解を示し、コミュニティから大きな反発を招きました。

ビア氏は、多くのアカウントが過剰な投稿や価値のないリプライを繰り返すことで、プラットフォーム側のアルゴリズムによってリーチが制限されていると指摘しました。

これに対し、オンチェーン分析企業CryptoQuantの創設者であるチュ・ギヨン(Ki Young Ju)氏らは猛烈に抗議しています。

チュ氏は、「問題の核心は、Xのアルゴリズムが正当なユーザーとAI生成スパムを区別できていないことにある」と主張しました。

仮想通貨そのものを規制したり排除したりするのではなく、ボットの検出精度を向上させるべきだという意見です。

Xが展開する「修正」への試み

こうした批判を受けつつも、Xは仮想通貨ユーザーの利便性を高めるための新機能も並行して導入しています。

  1. スマート・キャッシュタグ(Smart Cashtags)の導入:ビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)などのリアルタイム価格チャートを、アプリを離れることなく閲覧可能にしました。
  2. 信頼性スコアの導入検討:初めて仮想通貨に関する投稿を行うアカウントに対し、新たな制限やルールを設けることで、詐欺(スキャム)投稿を抑制する動きも見せています。

低迷する市場センチメントと検索関心の低下

ソーシャルメディア上での「拒絶」は、実際の市場データともリンクしています。

2026年4月現在の仮想通貨・恐怖強欲指数(Crypto Fear & Greed Index)は「29(恐怖)」となっており、投資家の心理が冷え込んでいることを示しています。

先月の「11(極度の恐怖)」からは回復傾向にあるものの、依然として積極的な投資意欲は戻っていません。

また、Googleトレンドのデータによれば、「仮想通貨」や「ビットコイン」といった用語の検索関心は2026年初頭にピークを迎えた後、急激な右肩下がりを続けています。

Xにおけるミュート率の高さは、単なるスパムへの不快感だけでなく、市場全体の停滞感に伴うユーザーの「飽き」を反映している可能性も否定できません。

まとめ

Xにおける「仮想通貨」トピックのミュート率1位という結果は、SNSプラットフォームとWeb3コミュニティが直面している構造的な課題を浮き彫りにしました。

AIによって自動化されたコンテンツ制作が容易になった現代において、質の高い情報とスパムの選別はかつてないほど困難になっています。

仮想通貨が再び「見る価値のある話題」としての地位を取り戻すためには、プラットフォーム側のアルゴリズム改善だけでなく、コミュニティ全体がエンゲージメント稼ぎの誘惑を断ち切り、本質的な価値を持つ発信に立ち返る必要があるでしょう。

情報の海が「AIスロップ」に飲み込まれるのか、それとも信頼できる金融SNSとしての機能を回復できるのか、Xと仮想通貨界隈の攻防は今後も続きます。