暗号資産(仮想通貨)決済プラットフォームの世界的リーダーであるMoonPay(ムーンペイ)が、イスラエルを拠点とするサイバーセキュリティ企業Sodot(ソドット)を約1億ドル(約155億円)で買収したことを明らかにしました。
今回の買収は、MoonPayがこれまでの個人向け決済サービスから、機関投資家向けデジタル資産インフラへと本格的に事業を拡大するための戦略的な一手です。
2026年現在、伝統的な金融機関によるデジタル資産市場への参入が加速する中で、MoonPayは新たな部門「MoonPay Institutional(ムーンペイ・インスティテューショナル)」を設立し、強固なセキュリティ基盤を背景に市場の覇権を狙います。
Sodotの技術力と次世代セキュリティ「MPC」の重要性
2023年に設立されたSodotは、高度な暗号技術を用いた鍵管理インフラストラクチャを専門とするスタートアップです。
同社の核となる技術は、マルチパーティ計算(MPC:Multi-Party Computation)と呼ばれる手法です。
MPC技術が機関投資家に選ばれる理由
MPCは、単一の秘密鍵を作成する代わりに、複数の独立した当事者に秘密鍵の「シェア」を分散して保持させる技術です。
これにより、単一のノードが侵害されても資産が流出するリスクを極限まで低減できます。
- 単一障害点の排除:鍵を分割管理するため、ハッキングのリスクを分散。
- 柔軟な承認フロー:組織内のガバナンスに合わせた署名権限の設定が可能。
- 運用効率の向上:従来のマルチシグと比較し、オンチェーン手数料の削減が期待できる。
MoonPayはこのSodotの技術をコア・インフラストラクチャ・レイヤーとして統合し、金融機関、資産運用会社、ヘッジファンド、取引所など、極めて高い安全性が求められる層に対して「セルフホスト型」のウォレット管理ソリューションを提供します。
MoonPay Institutionalが提供する包括的ソリューション
新設された機関投資家向け部門は、単なるカストディ(保管)サービスに留まりません。
デジタル資産のエコシステム全体をカバーする幅広いソリューションを掲げています。
主な提供サービス一覧
| サービスカテゴリ | 詳細内容 |
|---|---|
| トレーディング | 高い流動性を背景とした機関投資家向け暗号資産取引 |
| セキュリティトークン | 現物資産(RWA)のトークン化および発行支援 |
| ステーブルコイン発行 | 独自のステーブルコイン発行・運用のためのインフラ提供 |
| ウォレット管理 | MPC技術を活用したエンタープライズ向け鍵管理 |
| 決済ソリューション | 法定通貨とデジタル資産のシームレスな交換(On/Off-ramp) |
今回の買収により、MoonPayはリテール向けの「簡便さ」と、機関向けの「堅牢さ」を両立させた唯一無二のプラットフォームへと進化を遂げます。
元CFTC長官代理キャロライン・ファム氏による強力なリーダーシップ
この新部門を統括するのは、2025年末にMoonPayの最高法務責任者(CLO)として加わったキャロライン・ファム(Caroline Pham)氏です。
ファム氏は、米国商品先物取引委員会(CFTC)の長官代理を務めた経歴を持ち、金融規制の第一線で長年活躍してきた人物です。
機関投資家がデジタル資産を導入する際の最大の障壁は「規制への適合性(コンプライアンス)」であり、ファム氏の起用は、MoonPayが法規制に完全に準拠した形で機関投資家をサポートする姿勢を象徴しています。
CEOのアイヴァン・ソト=ライト氏は、「金融規制と資本市場において最高レベルの経験を持つキャロライン以上に、このビジネスを率いるのに適した人物はいない」と強い自信を示しています。
激化する機関投資家向け暗号資産インフラ市場の競争
MoonPayの参入により、デジタル資産のインフラ市場は新たな局面を迎えています。
これまではFireblocks(ファイアブロックス)やBitGo(ビットゴー)といった専業企業が市場を牽引してきましたが、決済分野で強力なシェアを持つMoonPayが本格参入したことで、顧客獲得競争はさらに激化するでしょう。
近年では、以下のような提携や統合が進んでいます。
- OKXとBitGoの統合:取引所外決済を可能にするソリューションの提供。
- BitMEXとZodia Custodyの提携:欧州市場における機関投資家向けデリバティブ取引の強化。
- 伝統的金融機関の独自参入:大手銀行によるトークン化資産プラットフォームの構築。
MoonPayは、すでに数千万人のユーザーを抱える自社の決済ネットワークと、Sodotの高度なセキュリティを組み合わせることで、既存の競合他社にはない「エンドツーエンドの利便性」を武器に差別化を図っています。
まとめ
MoonPayによるSodotの買収と機関投資家部門の設立は、暗号資産市場が「キャズム(普及の溝)」を超え、メインストリームの金融システムへと統合されるプロセスを象徴しています。
1億ドルという巨額の投資は、単なる技術取得ではなく、将来的な資本市場のトークン化を見据えた先行投資と言えるでしょう。
元規制当局のリーダーであるキャロライン・ファム氏の指揮のもと、MoonPayが提供するMPCベースのセキュアなインフラは、これまで参入を躊躇していた伝統的な金融機関にとっての「呼び水」となる可能性があります。
リテール決済の王者が機関投資家の世界でどのような変革を起こすのか、今後の展開に大きな注目が集まっています。

