世界的な決済インフラの巨人であるVisaが、暗号資産(仮想通貨)を用いた次世代の決済ネットワーク構築に向けて、さらに一歩踏み出しました。
同社が進めるステーブルコイン決済のパイロットプログラムにおいて、新たにPolygonやBaseを含む5つのブロックチェーンネットワークへの対応が発表されました。
これにより、Visaがサポートするブロックチェーンは合計9種類にまで拡大し、オンチェーン決済の年間ランレートは約70億ドル(約1兆円超)に達しています。
伝統的な金融システムとWeb3テクノロジーの融合が、かつてないスピードで進んでいます。
Visaが主導するステーブルコイン決済の劇的な拡張
Visaは2023年から、従来の銀行間の決済網(Swift等)を介さずに、パブリックブロックチェーンとステーブルコインを利用して取引を清算する実証実験を継続してきました。
今回のアップデートでは、すでにサポートされていたEthereum、Solana、Stellar、Avalancheに加え、新たにPolygon、Base、Canton Network、Arc、Tempoの5つが統合されました。
新たに採用されたネットワークの戦略的意義
今回追加されたネットワークの中でも、特にPolygonとBaseの採用は大きな意味を持ちます。
PolygonとBaseによるスケーラビリティの確保
Polygonは企業による採用実績が豊富で、イーサリアムとの互換性を持ちつつ低コストな取引を可能にします。
一方、Baseは米大手取引所Coinbaseが主導するレイヤー2ネットワークであり、極めて高い処理能力とユーザーベースの広さを誇ります。
Visaはこれらのレイヤー2ソリューションを取り込むことで、数億人規模のユーザーが日常的に利用できる「高速かつ安価な決済インフラ」の確立を狙っています。
機関投資家向けネットワークの統合
また、Canton NetworkやArcといったネットワークへの対応は、Visaが単なる一般消費者向け決済だけでなく、機関投資家間の資産移転や証券決済も視野に入れていることを示唆しています。
これにより、24時間365日稼働するリアルタイム決済の実現に近づいています。
年間決済規模70億ドルの衝撃と成長率
Visaの報告によると、このステーブルコイン決済プログラムの四半期ごとの成長率は約50%に達しており、年間ベースでの決済規模(ランレート)は70億ドルを突破しました。
| 指標 | 数値 |
|---|---|
| 年間決済ランレート | 約70億ドル |
| 前四半期比成長率 | 50% |
| サポートするブロックチェーン数 | 9種類 |
| 流通するステーブルコイン総額 | 3,200億ドル超 |
Visaのコアビジネスである年間数兆ドル規模のカード決済と比較すれば、70億ドルという数字はまだ初期段階と言わざるを得ません。
しかし、四半期で50%増という圧倒的な成長スピードは、決済業界におけるパラダイムシフトが確実に起きていることを証明しています。
なぜステーブルコイン決済が求められるのか
Visaがこれほどまでにブロックチェーン技術に注力する背景には、既存の金融システムが抱える「時間」と「コスト」の課題があります。
- 決済の即時性:従来の国際送金は数日を要することが一般的ですが、オンチェーン決済では数秒から数分で完了します。
- 24時間365日の稼働:銀行の営業時間に縛られることなく、深夜や休日でも清算業務が可能です。
- 透明性の向上:パブリックブロックチェーン上で取引を記録することで、資金の移動をリアルタイムで追跡できます。
加速する決済業界の覇権争い
Visaの動きに呼応するように、ライバルであるMastercardや決済スタートアップもステーブルコイン市場への攻勢を強めています。
Mastercardとの競争激化
Mastercardは、MetaMaskなどのWeb3ウォレットと直接連携し、ステーブルコインでカード決済ができる仕組みを米国などで展開しています。
決済ネットワークの「入り口」を抑えようとするMastercardに対し、Visaは「決済の清算レイヤー(インフラ)」そのものをブロックチェーンに置き換えようとする戦略を鮮明にしています。
フィンテック企業との連携強化
Visaは最近、Stripeの子会社であるBridgeとの提携を拡大しました。
これにより、企業が独自のカードプログラムを通じてステーブルコイン決済を導入することが容易になっています。
また、サンフランシスコを拠点とするModern TreasuryがPolygonを統合するなど、周辺の決済ソフトウェア環境もブロックチェーンへの移行を支援しています。
法整備の進展が追い風に
2026年現在、米国では「GENIUS Act」の可決により、決済用ステーブルコインに対する規制の透明性が劇的に向上しました。
これまで不透明だった発行体の基準や準備金の管理方法が明確になったことで、Visaのような大手金融機関がコンプライアンスを遵守した形でブロックチェーン技術を導入できる土壌が整っています。
市場に出回るステーブルコインの総発行額は3,200億ドルを超え、2024年初頭から約150%も増加しています。
規制当局がステーブルコインを「デジタル時代の決済手段」として正式に認めたことで、今後さらに機関投資家からの資金流入が加速すると予想されます。
まとめ
VisaによるPolygonやBaseのサポート拡大は、ステーブルコイン決済がもはや「実験」の域を超え、実用的な商用フェーズに突入したことを告げています。
年間70億ドルという決済規模は、ブロックチェーンが持つ高い効率性とスケーラビリティが、既存の金融界から正当に評価され始めた結果と言えるでしょう。
今後、デジタル資産の規制がさらに整備され、イーサリアムのレイヤー2技術が普及するにつれ、私たちが意識することなく「バックエンドでブロックチェーンが動く決済」が当たり前になる未来は、すぐそこまで来ています。
Visaが描く「オンチェーン決済の標準化」が、世界のマネーフローをどのように変えていくのか、その動向から目が離せません。

