破綻した仮想通貨レンディング大手セルシウス・ネットワーク(Celsius Network)の元最高収益責任者(CRO)であるロニ・コーエン=パボン被告に対し、米検察当局が寛大な判決を勧告したことが明らかになりました。

この動きは、仮想通貨業界を震撼させた2022年の崩壊劇から4年が経過した現在、一連の刑事裁判における大きな節目を意味しています。

ニューヨーク州南地区連邦検事局(SDNY)が提出した今回の勧告は、司法当局が不正の解明において内部告発者や捜査協力者の役割をいかに重視しているかを改めて示すものとなりました。

米検察当局による減刑勧告の背景

米連邦検事ジェイ・クレイトン氏は、ニューヨーク連邦地方裁判所に提出した書簡の中で、コーエン=パボン被告が政府に対して行った「実質的な協力(substantial assistance)」を高く評価しました。

被告は、セルシウスの共同創設者であり元CEOのアレックス・マシンスキー被告に対する捜査において、決定的な証言と証拠を提供したとされています。

検察側は具体的な禁錮刑の期間を提示していませんが、裁判官に対して、連邦量刑ガイドラインに基づき、捜査協力に見合った「適切な減刑」を検討するよう求めています。

これに対し、コーエン=パボン被告の弁護団は、すでに社会的な制裁を受けていることや深い反省の意を示していることから、既決拘禁時間(Time Served)のみの判決、すなわち実質的な追加刑期なしでの釈放を求めています。

元CEOマシンスキー被告の有罪判決への影響

検察当局は、コーエン=パボン被告の協力が、2025年に下されたアレックス・マシンスキー被告の重い判決を導き出す上で極めて重要な要因であったと指摘しています。

  • マシンスキー被告への影響: コーエン=パボン被告が司法取引に応じ、政府側で証言する準備を整えたことが公になったことで、マシンスキー被告は公判直前に罪を認める決断を余儀なくされました。
  • マシンスキー被告の刑期: 2025年5月、マシンスキー被告は証券詐欺および商品詐欺の罪で禁錮12年(144ヶ月)の判決を受けています。
  • 捜査の進展: コーエン=パボン被告はセルシウスの内部構造や、CELトークンの価格操作がいかに行われていたかについて、詳細な「内部者の視点」を当局に提供しました。

CELトークンの価格操作と詐欺スキームの実態

コーエン=パボン被告が関与を認めた主な罪状は、セルシウスの独自トークンである「CELトークン」の価格操作および詐欺の共謀です。

2023年9月の有罪認否において、被告は数十億ドルの顧客資産が失われるきっかけとなった市場操作スキームにおける自身の役割を認めました。

組織的な価格維持工作

裁判資料によると、セルシウスは顧客から預かった資金を流用し、市場でCELトークンを買い支えることで、その価格を不当に高く維持していました。

コーエン=パボン被告はCROとして、このスキームの執行に関与していました。

検察側の資料によれば、被告はマシンスキー被告の指示のもと、市場の需給とは無関係に「数十万ドル規模の買い注文」を定期的に出し、投資家に対してセルシウスの財務状況が健全であるかのような誤認を与えていたとされています。

被告による「抵抗」と「加担」の矛盾

興味深いことに、弁護団が提出した資料には、コーエン=パボン被告が当初、マシンスキー被告の過激な言動や不透明な経営手法に対して内部から異議を唱えていた形跡が含まれています。

被告は、マシンスキー被告がソーシャルメディアや「Ask Mashinsky Anything(AMA)」を通じて発信していた虚偽の説明を是正しようと試みた時期もありましたが、最終的にはその不正な構造に飲み込まれ、価格操作を主導する立場となってしまいました。

2022年仮想通貨バブル崩壊の遺産

セルシウスの破綻は、2022年の仮想通貨市場における連鎖的な崩壊の一部でした。

FTXやヴォイジャー・デジタル(Voyager Digital)と同様に、セルシウスの失墜は、仮想通貨業界における「不透明なレンディング(貸付)慣行」の危険性を浮き彫りにしました。

関連事案主要な罪状判決・現状(2026年5月時点)
セルシウス(マシンスキー被告)証券詐欺・価格操作禁錮12年の実刑判決(確定)
FTX(SBF被告)顧客資産の流用・詐欺再審請求が却下、上訴審継続中
セルシウス(パボン被告)価格操作の共謀今回、検察が協力に基づき減刑を勧告

今回の減刑勧告は、司法当局が「業界全体の浄化」を目的として、組織的な犯罪における「協力者へのインセンティブ」を明確に提示した形です。

これにより、今後発生し得る他の仮想通貨関連の不正事件においても、内部告発が促進される可能性があります。

今後のスケジュールと注目のポイント

コーエン=パボン被告の判決言い渡しは、当初2026年5月7日に予定されていましたが、ジョン・ケルトル判事はこれを5月13日に延期しました。

裁判所が、検察の減刑勧告と被告の弁護団が主張する「既決拘禁時間のみ」という要求のどちらに傾くかが焦点となります。

連邦量刑ガイドラインにおける被告のベースラインは非常に重いものでしたが、5K1.1(政府への協力に基づく下方修正)が適用されることで、実際の刑期は大幅に短縮される見通しです。

また、米司法省の公式リリース等で過去に発表された事例を鑑みると、パボン被告のような協力者が実刑を完全に免れるケースは稀ですが、執行猶予や極めて短い禁錮刑にとどまる可能性は十分にあります。

まとめ

2026年5月に明らかになったロニ・コーエン=パボン被告への減刑勧告は、セルシウス事案の刑事手続きにおける最終章のひとつと言えます。

かつてのCROが、かつてのCEOを追い詰めるための「鍵」となった事実は、仮想通貨業界の不透明な時代の終焉を象徴しています。

検察当局が示した「協力に対する報酬」としての減刑勧告は、司法が不正の連鎖を断ち切るための強力なツールとして機能していることを示しました。

投資家保護と市場の透明性が叫ばれる中で、この判決結果は今後の仮想通貨規制および司法判断の重要な判例となるでしょう。

マシンスキー被告が禁錮12年という重刑に処された一方で、その右腕であったパボン被告がどのような判決を受けるのか、5月13日の法廷に世界の注目が集まっています。