米ナスダック上場企業であり、ビットコイン(BTC)を財務資産の主軸に据えるストラテジー社の最高経営責任者(CEO)フォン・リー氏が、将来的に同社のビットコイン保有量を200万BTCまで拡大させる構想を明らかにしました。
この数字は、ビットコインの総発行上限である2,100万枚の約10%に相当し、一民間企業が市場流通量の1割を独占するという、かつてない規模の財務戦略となります。
この大胆なヴィジョンは、暗号資産市場における需給バランスを根本から変え、構造的なサプライショックを引き起こす可能性を秘めています。
本記事では、この驚愕の構想の背景にある独自の資金調達スキームや、伝統金融を巻き込んだビットコイン財務戦略の現在地について深掘りします。
ストラテジー社が描く「200万BTC保有」の衝撃度
ストラテジー社が掲げた「200万BTC」という目標は、現在のビットコイン市場の常識を覆すものです。
ビットコインの最大供給量はプロトコルによって2,100万枚と厳格に定められており、そのうち既に約1,900万枚以上が採掘済みです。
しかし、紛失されたとされるコインや長期保有者のウォレットに眠る分を除くと、実際に市場で流通している「浮動株」に相当するビットコインは限られています。
世界最大の保有機関としての地位を盤石に
現在、ストラテジー社は81万5,061BTCを保有しており、これは現物ビットコインETFとして世界最大規模を誇るブラックロック(BlackRock)の「iShares Bitcoin Trust(IBIT)」が保有する約78万8,000BTCを既に上回っています。
ETFは投資家の資金を代理で運用する形態ですが、ストラテジー社は自社資産としてこれだけの量を保有しており、まさに世界最大のビットコイン保有機関としての地位を確立しています。
今回のフォン・リーCEOの発言は、この圧倒的な保有量をさらに2倍以上に引き上げることを意味します。
もし200万BTCの保有が現実のものとなれば、市場に流通するビットコインの希少価値は極限まで高まり、機関投資家や個人投資家が手に入れられる「自由なビットコイン」が枯渇する事態を招きかねません。
供給ショックが市場にもたらす構造的変化
200万BTCが一つの企業の金庫に収まるということは、全供給量の約10%が「永久に売却されない資産」として市場から隔離されるに近い状態を意味します。
これが引き起こすのが構造的なサプライショックです。
| 項目 | 内容・影響 |
|---|---|
| 総発行上限 | 2,100万BTC |
| ストラテジー社目標 | 200万BTC(全体の約9.5%) |
| 市場への影響 | 流動性の低下、価格のボラティリティ増大 |
| 心理的影響 | 企業によるBTC争奪戦の激化 |
このような状況下では、わずかな需要の増加が価格の急騰を招きやすくなる一方で、売り圧力が極端に弱まるため、価格の下値支持線が段階的に切り上がっていくことが予想されます。
資金調達の要:永久優先証券「STRC」の正体
ストラテジー社がこれほどまでに強気な買い増しを継続できる背景には、「STRC」と呼ばれる独自の金融商品の成功があります。
これは永久優先証券の一種であり、従来の社債や株式発行とは異なる、発行体(ストラテジー社)に極めて有利な設計がなされています。
投資家を惹きつける高配当と企業優位の設計
STRCは1口あたり100ドル前後で取引されるよう設計されており、年率11.5%という極めて高い変動配当を提供しています。
特筆すべきは、この配当が「毎月リセット」される点です。
STRCの主な特徴
- 高い利回り: 年率11.5%の配当は、低金利環境が続く伝統的金融市場において非常に魅力的です。
- 発行体優位のクーポン設定権: クーポンレート(配当率)の設定権限をストラテジー社側が持っており、市場環境に合わせて柔軟に調整可能です。
- 永久証券の性質: 償還期限が定められていないため、ストラテジー社は元本の返済義務を長期的に先延ばしにしつつ、調達した資金をビットコイン購入に充当できます。
直近の取得事例では、34,164BTCを購入するために投じられた約21億8,000万ドルのうち、実に約85.7%がこのSTRC経由で調達されています。
これまでにSTRCを通じて累計約10万BTCが取得されたと推定されており、この仕組みこそが200万BTC構想を実現するための「無限のエンジン」となりつつあります。
財務バランスシートの構造的強化
BitMEX Researchの分析によると、STRCのような企業優位の条項を備えた金融商品は、ストラテジー社のバランスシートを構造的に強化する効果があります。
ビットコインの価格が上昇すれば、保有資産の評価額が膨らみ、それを担保にさらに有利な条件でSTRCを発行できるという「正のフィードバックループ」が形成されます。
拡大するビットコイン財務戦略:伝統金融の参入
ストラテジー社の動きは、もはや一企業の突出した行動ではなく、世界的な「ビットコイン財務戦略(Bitcoin Treasury Strategy)」の潮流の一部となっています。
特に、伝統的な巨大金融資本がこうした戦略を支援し始めている点は見逃せません。
日本のメタプラネットとキャピタル・グループの動向
日本市場においても、「日本版マイクロストラテジー」とも称されるメタプラネットが同様の戦略を推し進めています。
これに対し、運用資産残高3兆ドルを超える世界最大級の資産運用会社キャピタル・グループ傘下の「アメリカン・ファンズ・EUPAC・ファンド」が、2026年4月にメタプラネット株を大量に買い増したことが判明しました。
同ファンドはメタプラネット株を279万株追加取得し、合計保有数を385万株(約880万ドル相当)にまで拡大しています。
これは、伝統的な機関投資家が「ビットコインを直接保有する企業」を通じて間接的にビットコインへ投資していることを示唆しています。
モルガン・スタンレーらによる販売チャネルの拡大
ストラテジー社の構想を支えるもう一つの柱は、モルガン・スタンレーをはじめとする大手投資銀行との連携です。
これらの金融機関がSTRCや関連証券の販売チャネルとして機能することで、これまで暗号資産に直接触れてこなかった伝統的な保守層の資金が、ストラテジー社を経由してビットコイン市場へと流れ込んでいます。
実現へのハードルと今後の展望
フォン・リーCEOの「200万BTC構想」は壮大ですが、その実現にはいくつかの不確定要素も存在します。
2028年の半減期と価格動向
ビットコインは2028年に次の半減期を迎える予定です。
歴史的に半減期後は供給量の減少から価格が上昇する傾向にありますが、その一方でマイニング報酬の減少がネットワークのセキュリティに与える影響や、市場のボラティリティ増大が懸念されます。
ストラテジー社の戦略はビットコイン価格の上昇を前提としているため、長期的な低迷期(弱気相場)が訪れた際の金利支払い能力が試されることになるでしょう。
規制環境とSTRCの持続性
STRCのような特殊な金融商品に対する規制当局の目が厳しくなる可能性も否定できません。
現在は企業優位の条件で資金調達ができていますが、投資家保護の観点から新たな規制が導入された場合、現在のペースでの買い増しに急ブレーキがかかるリスクもあります。
実現を左右する3つの鍵
STRCの継続的な資金調達能力伝統金融機関による販売網の維持と拡大ビットコイン価格の長期的右肩上がりの推移
まとめ
ストラテジー社による「200万BTC保有構想」は、単なる一企業の野心を超え、ビットコインがグローバルな金融システムの中でどのような地位を占めるのかを問う試金石となっています。
全供給量の10%を一社が掌握するというシナリオは、市場に深刻な供給ショックをもたらす一方で、ビットコインの資産としての信頼性を裏付ける強力な証左ともなり得ます。
独自スキーム「STRC」による効率的な資金調達、そしてキャピタル・グループのような伝統金融の巨頭による支援という背景を考えると、この「10%独占」というシナリオは決して絵空事ではありません。
今後、2028年の半減期に向けて、ストラテジー社がどのようにビットコインを積み上げ、それが市場の価格形成にどのような影響を及ぼしていくのか。
世界中の投資家がその一挙手一投足に注目しています。

