マクセル (6723) は、かつての磁気テープの象徴的な存在から、独自の 「アナログコア技術」 を武器とした高付加価値製品のメーカーへと鮮やかな転換を遂げました。

2025年度の通期決算を経て、同社は現在、中期経営計画 「MEX26」 の最終年度である2026年度に向けた極めて重要な局面に立っています。

原材料費高騰や地政学リスクといった荒波の中でも、電池事業の再編と成長投資を加速させ、営業利益100億円の大台を目指す同社の戦略は、投資家からも熱い視線を浴びています。

2025年度決算の総括:外部環境の試練と構造改革の進展

2025年度のマクセルは、売上高1,294億円 (前年比0.3%減)、営業利益79億円 (同15.3%減) と、本業においては減益 を余儀なくされました。

しかし、この数字の背景を詳細に分析すると、一時的なコスト要因と、将来に向けた前向きな構造改革が混在していることがわかります。

営業利益を圧迫した「銀価格」の急騰

2025年度の利益面で最大の逆風となったのは、エネルギーセグメントにおける 原材料費、とりわけ銀価格の記録的な高騰 です。

酸化銀電池の主要材料である銀の価格上昇は、セグメント利益を数億円規模で押し下げました。

同社は価格転嫁の交渉を継続していますが、タイムラグの影響もあり、期初予想の営業利益100億円には届きませんでした。

セグメント別の明暗とポートフォリオ管理

各事業セグメントの状況を整理すると、以下の通りとなります。

セグメント売上高 (億円)営業利益 (億円)主要トピック
エネルギー42521一次電池は好調だが銀価格高騰が打撃 |
機能性部材料32615建築・半導体向けテープが伸長 |
光学・システム36435車載用は堅調、半導体関連は回復遅れ |
価値共創1798電設工具は好調、美容製品は関税影響 |

光学・システムセグメントでは、汎用半導体市場の低迷によりDMS (設計・製造受託サービス) 事業が苦戦しましたが、2025年度第4四半期からは実需の回復傾向 が明確になってきています。

また、不採算であった角形リチウムイオン電池の生産終了を決断するなど、負の遺産を整理し、高収益体質への脱皮を着実に進めた一年であったと言えます。

2026年度のV字回復シナリオ:営業利益100億円への道筋

マクセルが掲げる2026年度の業績予想は、売上高1,430億円 (前年比10.5%増)、営業利益100億円 (同26.7%増) という強気なものです。

この達成を支える最大のエンジンが、「村田製作所からの事業譲受」「小型電池のフロントランナー戦略」 です。

マクセルサクラ社の連結による規模の拡大

2026年3月1日付で完了した村田製作所からの一次電池事業の譲受は、マクセルの事業規模を一気に押し上げます。

新たに加わった 「マクセルサクラ社 (旧・村田製作所郡山事業所)」 は、酸化銀電池に強みを持ち、年間約120億円の売上貢献が見込まれています。

単なる売上の加算にとどまらず、マクセルの小野事業所とマクセルサクラ社の郡山事業所が連携することで、生産キャパシティの相互補完や、開発リソースの集約が可能となります。

特に医療機器向けなど、需要が旺盛ながら供給が追いついていなかった領域でのシェア拡大が期待されており、買収シナジーの早期発現 が利益成長の鍵を握ります。

小型電池領域での「フロントランナー戦略」

マクセルはコーポレートバイラインとして Micro batteries. Maximum impact. を制定しました。

これは、同社の強みが最も発揮される高信頼性の小型電池領域で、世界No.1を目指すという決意の表れです。

次世代の切り札:全固体電池の社会実装

将来の成長ドライバーとして期待されるのが 「全固体電池」 です。

マクセルは世界に先駆けて全固体電池の量産体制を整えており、2026年度は数億円規模の売上を見込んでいます。

現在はFA機器やインフラ監視デバイス向けのサンプル出荷・商談が進んでいますが、同社の戦略は「電池単体」の提供にとどまりません。

周辺回路と一体化した 電源モジュールとしての提案 を強化することで、顧客の設計負担を軽減し、早期の社会実装を狙っています。

既存の一次電池を全固体電池へ置き換える需要を掘り起こすことで、2030年に向けた爆発的な成長の礎を築く計画です。

財務戦略と株主還元の強化:総還元性向100%へのコミット

マクセルの投資家フレンドリーな姿勢は、その強力な株主還元策に現れています。

同社は中期経営計画の3カ年累計で 総還元性向100%以上 を公約しており、2025年度は132億円もの自己株式取得を実施しました。

2026年度の増配計画

業績の回復を見越し、2026年度の普通配当は 1株あたり56円 (前年比6円増配) を計画しています。

純利益ベースでは2025年度の特別利益剥落により減益見通しとなっていますが、配当の原資となるキャッシュフローは、事業構造の改善により安定感を増しています。

積極的な成長投資の継続

株主還元と並行して、マクセルは3カ年累計で350億円の成長投資を実行しています。

そのうち200億円をエネルギーセグメントに集中させており、小野事業所の増床やデジタルトランスフォーメーション (DX) への投資を通じて、競争力を維持・強化しています。

有利子負債を適切に活用しながら、資本効率 (ROIC) 5.5%、ROE 7.5% の達成を目指す財務運営は、極めて健全であると評価できます。

コラム:株価への影響分析と投資判断のポイント

マクセル マクセル (6723) の株価動向について、今回の事業計画をベースに分析します。

株価上昇要因 (ポジティブ・シナリオ)

  • 事業譲受による業績の上振れ: マクセルサクラ社との統合がスムーズに進み、PMI (買収後の統合プロセス) が期待以上のスピードで利益を生み出した場合、市場の評価は一気に高まります。
  • 半導体DMS事業の本格回復: 汎用半導体市場の底打ちが確認され、同社の光学・システムセグメントの利益率が向上すれば、株価の押し上げ要因となります。
  • 全固体電池の大型案件獲得: 現状の「数億円」規模から、大手顧客による採用など「数十億円」規模への道筋が見えた時、成長株としてのプレミアムが付与されるでしょう。

株価下落・よこばい要因 (ネガティブ・シナリオ)

  • 原材料費の再高騰: 中東情勢の緊迫化による原油・ナフサ価格の上昇や、銀価格のさらなる高騰は、価格転嫁が追いつかない場合に利益を圧迫します。
  • 構造改革の遅れ: 光学レンズユニット事業の子会社移管や不採算事業の整理が、人財流出や顧客離れを引き起こすリスクには注意が必要です。

総合的な分析

短期的には、2025年度の純利益減益予想がネガティブに捉えられる可能性がありますが、これは前年の資産売却益の反動に過ぎません。

本業の利益を示す営業利益が26.7%増という強い回復を見込んでいる点、そして 総還元性向100%という高い株主還元意識 を考慮すれば、株価の下値は限定的と考えられます。

市場がマクセルを「テープの会社」から「次世代電池のリーダー」として正当に再評価すれば、中長期的には 「上昇」 の可能性が高い銘柄といえるでしょう。

中東情勢のリスク管理:経営陣の覚悟

2026年度の計画を進める上で避けて通れないのが、不安定な中東情勢の影響です。

マクセルは、第1四半期において数億円規模のコスト増リスクを想定していますが、これに対しては 「売価への確実な反映」 という強い覚悟を持って臨んでいます。

過去の原油高局面では、一部セグメントで利益を大きく毀損した苦い経験がありますが、現在は「失注を覚悟してでも価格転嫁を進める」という経営方針を明確にしています。

これは、同社の製品が「代えのきかない高付加価値製品」へと進化している自信の裏返しでもあります。

代替材料の確保やグループ間での部材融通など、サプライチェーンの強靭化も同時に進めており、リスク耐性は以前よりも格段に向上しています。

まとめ

マクセルの2026年度計画は、過去数年間の苦しい構造改革を経て、いよいよ「攻め」へと転じるマイルストーンとなるものです。

村田製作所から引き継いだ一次電池事業を血肉とし、小型電池領域で圧倒的なシェアを握ることで、同社は安定的な収益基盤を確立しようとしています。

また、全固体電池という次世代の成長の芽を大切に育てつつ、株主に対しては誠実な還元を続ける姿勢は、資本市場からの信頼を勝ち取るに十分な内容です。

「アナログコア技術で未来を切り拓く」 同社の挑戦が、2026年度の営業利益100億円達成という形で見事に結実するかどうか。

マクセルの真の飛躍は、ここから始まると言っても過言ではありません。